ドキュメンタリー映画「SEED ~命の糧~」試写会と、日本で種を守る人たちの話 | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」

6月14日、ドキュメンタリー映画『SEED〜命の糧〜』の特別先行試写会&ミニトークイベントに参加して、ひと足先にこの映画を観た。
ストーリー
種の多様性が人類史上最速で失われようとしている今、世界のさまざまな場所で、その土地で受け継がれてきた種子を守ろうと、小さなシードバンクを作る人がいる。はたまた絶滅寸前の作物を求めて、世界中を旅するシードハンターがいる。この作品は、そんな人たちの活動や思いを描いたドキュメンタリー。第70回エミー賞にノミネートされ、18の映画賞を受賞。世界47カ国で1000回以上上映会が行われている。
その背景にあるのは、遺伝子組み換え作物の脅威。世界のあらゆる場所で、栽培上のトラブル、農家の経営破綻、近隣住民の健康被害などが起きている現実を突きつけられた。
遺伝子組み換えについては、賛否両論あるけれど、個人的には、作物そのものの安全性、それが他の作物に与える影響、セットで使われる農薬の環境への影響、種子と一緒に農薬と化学肥料も売り込まれるため、コストが割高となり農家の経営を圧迫する……複雑怪奇な問題が、きちんと解明されぬまま、世界中で栽培が進んでいる感がある。
とはいえ日本は遺伝子組み換え作物の輸入大国だ。「バイテク情報普及会」のHPによれば、その大部分が穀物で、コメの年間消費量の2倍に匹敵するという。トウモロコシは家畜の飼料や清涼飲料向けのコーンシロップに、大豆は醤油や味噌、豆腐、納豆などの原料となる大豆に、ナタネは食用油に欠かせないナタネに、そして衣類のコットンも……。
世界のどこかで誰かの暮らしや健康を脅威にさらしているかもしれない作物が、いつしか我々の日常に入り込んで、食生活を支えている。その事実を改めて認識すると、どこか後ろめたい気持ちになり、さりとてこの状況をいきなり変える有効な手立ても見あたらず……でも、このままじゃなんかイヤだ。そんな気持ちになる。
作品中、世界各地で種を採り続ける、種採り人が登場する

大切なのは、お金よりも種

今回、試写会を開いたのは「日本国際ボランティアセンター(JVC)」。ここで活動する渡辺直子さんは、ブラジルとモザンビークで日本が進めるODAの現地調査を行いながら、現地の農民たちの食文化や農業の営みを守ろうと何度も現地を訪れている。
中でもモザンビークでは、今年の月、大規模なサイクロンが発生して、表土が作物ごと流され、農具や種を失うなど、大きなダメージを受けた。JVCでは「種子と農具」の緊急支援を行うために、広く協力を求めている。
国際支援のエキスパートの渡辺さんが「種」の問題と向き合うきっかけは、現地の農業調査だった。
JVCで活動を続ける渡辺直子さん
同じトウモロコシでも、伝統種を栽培しているシャンデラさんは、種子を自前で更新しているので、種代はかからない。動力は牛とロバとトラクタ、肥料は牛糞とたい肥、農薬に灰や薬草を使う昔ながらの農法で、種子代も農業資材のコストもほぼゼロ。1haあたりの収穫量は4.9t。販売見込は117,600円、土の状態も改善されているという。
一方、食料増産援助を受けている、ガムラナさんの場合、ハイブリッドの種子を毎年購入して、化学肥料、殺虫剤、除草剤もすべて購入。なのに収穫量は、シャンデラさんより少ない4.2tで売上見込は75,600円、さらに経費が52,000円差し引かれ、土の状態も悪化している。
渡辺さんの調査結果。在来種とハイブリッド種の違いを検証
この結果はアジア、アフリカで展開されている家族経営の小規模農業に、大規模栽培を前提とした、ハイブリッド種(遺伝子組み換え種子も含む)、農薬、化学肥料、大型トラクタのセットが持ち込まれると、却って農家の経営を圧迫し、土まで悪化させてしまう。逆に昔ながらの種子と農法で、環境を循環させた方が、環境も経営も持続可能であることを物語っている。
国際支援を必要としている国に大型機械と農薬と種子をセットで売り込むことは、真の援助なのだろうか? ふたつのトウモロコシは、そう問いかけている。
渡辺さんのお話のなかで、興味深かったのは、
難民キャンプに避難した人は、みんな種を持って逃げるんです。
もし自分が、突然住処を追われ、逃げ惑い、明日をも知れぬ状況に陥ったら、何を持ち出すだろう? 現金? クレジットカード? 貴金属? スマホ? 仮想通貨? どれも食べられない。金融機関もATMも、あらゆるインフラが停止した混乱状態の中で、本当に追い詰められた時、私たちを救ってくれるのは、やはり命の源=「種」なのだろう。
何はなくても、とにかく家族を連れ、種を持って逃げる。たしかに種があれば避難先でそれを蒔いて育てられる。たくさん育てば家族や仲間と分かちあえる。種は「究極の財産」でもある。
日本で種子は、大部分が「買う」ものになっていて、そのほとんどが海外で採種されているので、プロの農家でも自家採種している人は少ない。けれど、家庭菜園の片隅で、「家族のために」ひっそりと作り続けられた作物は、たしかに今も存在している。

「在来作物」を守る人々

そして今、それが「在来作物」として農村以外の人たちの関心を集め、少しずつ広がりを見せている。その先進地が山形県。25年以上の歴史をもつ「山形在来作物研究会」があり、多種多様な在来作物が残され、調査研究も進んでいる。
また鶴岡市には、日本中から在来種や伝統種だけを集めて育てているオヤジ=山澤清さんが、在来野菜を使ったレストラン「土遊農」を営業中。「SEED」に登場する「種採りの翁」のような先達は、日本にもいるのだ。
「土遊農」の山澤さん。
日本中の在来種を育て、野菜だけのレストランも営業中
静岡県富士宮市周辺には、若手の有機栽培農家が多数存在していて、彼らはその地に根ざした地種をとても大事にしている。そんな中「富士山麓有機農家シードバンク」を設立。種子の収集と更新を行っている。去年、その勉強会に参加した時、みんなで種採りをした。莢からタネを取り出す作業は、根気がいる。だから一人でやるよりも、みんなで世間話をしながらワイワイやる方がずっと楽しい。
富士山麓有機シードバンクの人たちと行った、種採りの一コマ
でもって、私も福島県喜多方市の有機農家さんからいただいた「アオバコムギ」を、小さな市民農園に植えてみた。するとお茶碗一杯ほどの種子が採れた。少量なので、手で脱穀。莢から褐色の小麦が飛び出す瞬間がまた楽しい。
市民農園の片隅に植えた「アオバコムギ」を手で脱穀

身近にある種が直面している問題を考える

種採りは、昔から女性や年寄りの仕事だった。特別な機械やずば抜けた体力、大きな農地もいらない。その気になれば、誰もが庭やプランター、植木鉢でも始められる。
そして、この映画を観て改めて思うのは、種はとても美しい。それが発芽する様は、見る者の気持ちを高揚させる。
種の問題は世界規模で起きていて、あまりの複雑さと規模の大きさに、途方に暮れそうになるけれど、「自分の種がある」ことで、ちょっとだけ心が落ち着いていく。地種、家種、自種……そんな種たちは、「心のお守り」なのかもしれない。
世界中の誰にとっても身近で、かけがえのない存在であるはずの種子。その存在と、世界の種子が直面している問題に心を向けて考えよう。この映画は、見る人をそんな気持ちにさせてくれた。
渡辺さんが持ち帰ったトウモロコシ。左がハイブリッド。中と右が在来種。
南伊豆の有機農家にいただいた赤いそら豆。今年は自分で育てる予定
<参考URL>
【連載】三好かやのの「TALKに行きたい!」
  • ドキュメンタリー映画「SEED ~命の糧~」試写会と、日本で種を守る人たちの話
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