学生のうちに身につけたい、社会で必要なコミュニケーション力とは何か?

 
この連載では、これから社会に出る大学生に求められるコミュニケーション力とはどのようなものなのか、そして、その「力」(スキル)を彼らにいかに伝え、トレーニングしていくのかを、4回にわたってひも解いていきます。あくまで、筆者個人の経験をもとに進めさせていただくものであることをご理解の上、お読みいただければ幸いです。
第1回では「そもそもコミュニケーション力とは何か」を、実際の例をもとに考えます。

はじめに

私は、思考力を育成する学びの場(学習塾)である「考学舎」を23年にわたって運営しています。考学舎では、小学生から高校生までが1つの学び舎に集い、「自ら決断し、行動できる大人」になる準備をすべく、個別カリキュラムで「読解、思考、表現力」を学んでいます。
こうして子どもたちに関わっていると、「コミュニケーションの力が学ぶ力、ひいては成績に直結する」と感じることが数多くあります。また私は10年来、複数の医療系専門学校において、「学ぶ力」「大人として成長する力」をつける講義を実施しております。ここでは、いわゆるコミュニケーションワーク、理解する技法、考える技法、説明する技法、そして、時事と自己分析を通しての就職準備に至るまで、専門科目とは別の軸で、学生が学ぶ力をつけ、成長するための講座を通年で実施しています。ここでもまた、コミュニケーション力は成績に直結していることを実感する日々です。
私にはもうひとつの顔があります。いわゆる営業SEとして、企業における社内システム開発の支援を行っています。システム開発には業務の整理が必須です。個々人が抱える業務を整理するだけでは大きな効果は望めず、部署または会社全体が抱える業務を整理していくことで、必要十分なシステム提案が可能となります。業務課題を伺う中で、コミュニケーションに端を発する課題は少なくありません。多くのケースで、コミュニケーションを補完するシステム提案をさせていただくことになります。
このように、私は6歳から大人まで、さまざまな方々と個別に接し、話を聴き、課題を解決すべく提案をする……という仕事をしています。その中から今回は、社会に出て必要とされる力を示し、そのために必要な準備を提案します。

「コミュニケーション力」とはそもそも何か?

さて、いよいよ本題に入ります。まずは直球の質問です。「コミュニケーション力」とはそもそも何でしょうか?
皆さんそれぞれ、ご自分の中の「コミュニケーション力」の定義について思い浮かべてから読み進めてください。恐らく多くの方が「話す力」や「聴く力」を思い浮かべたのではないでしょうか。具体的には「相手の話をしっかり聞き、その上で自分の考えをしっかり説明できる、そして相手がそれを受け入れてくれる力」などと考えられます。もう少し詳しく見ていきましょう。

コミュニケーション力は「話す力?」

「自分の意見を相手に伝わるように話す、相手がわかるように話す」ことは重要ですが、いったいどうしたら伝わったと言えるのでしょうか。そして「話す力」はどこまでを指すのでしょうか。口から言葉を発するところでしょうか? 話し方でしょうか? それともその内容までを含むのでしょうか?

コミュニケーション力は「きく力?」

「相手の話をしっかり聞く」とはどういうことでしょうか。相手の目を見てうなずきながら聞いたら合格でしょうか。「きく」にもいろいろありますが、ここでは「聞く」か「聴く」を指すでしょう。きくことの大切さとして「傾聴」という言葉も昨今よく耳にします。どうすれば「耳を傾けて聴く」ということになるのでしょうか。
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私は、コミュニケーション力は「聴き、理解し、そして考え、話す」の総合力であると考えています。すらすらと自分の考えを話せても相手に伝わっていなければ意味がないですし、傾聴できていても、内容を理解していないままでは意味がありません。聴いた内容を理解し、そこから考え、返答する。相手もそれを理解した上でまた返答する。双方がこれらを繰り返すことができて初めて、コミュニケーションは成立します。
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もう少し詳しく見ていきましょう。

1.聴く力「傾聴力」について

最近よく聞くようになった言葉です。漢字の通り、耳を傾けて人の話を聴く。特に、うなずいたり、相手の言葉を繰り返したり、言い換えたりしながら聴くと、相手は、しっかり伝わったと感じます。
傾聴のトレーニングをする中で、多くの学生が口にすることがあります。それは「傾聴することによって、集中して話を聴くことができたので、話の内容の理解が進みました」というものです。話す側が話しやすいだけではなく、聴く側にも理解が進むメリットが生まれます。

2.話す力「アイメッセージ」

「アイ」は「I」(わたしは)という意味であり、「私」を主語にすることを意識して話すということです。例えば、相手に何かアドバイスをする際に「あなたは○○すべきだ」と言うのと、「私は○○するのがよいと思う」と言うのでは、伝わり方が大きく異なります。押し付けるのではなく、自分の意見は自分の意見として伝えるということです。これは上司と部下や親子などの関係では特に意識すると、伝わり方が大きく変わります。

3.相手が何を望んでいるのか? 自分は何を言いたいのか?「理解し、考える力」

こちらは普段のコミュニケーションの範疇ではあまり出てこないかもしれません。しかし「1.傾聴」で触れた学生の感想でもそうですし、コミュニケーションが双方向であることからも明確ですが、まずは言われたことを理解しなければ、正しいコミュニケーションは成立しません。
相手から言われたことを正しく理解し、自分なりに咀嚼してから、自分の考えと照らし合わせる。こうして初めて、自分の考えや感覚を、今度は自分の言葉にして発することができるのです。
 
「コミュニケーションがうまくいかない」というのは、「自分の伝えたいことが相手に伝わらない」際によく使います。相手が話していることをよく理解できない際に「コミュニケーションがうまくいかない」とは言いませんよね。「よくわからない」と表現するでしょう。しかしこれは、実はどちらも「理解できない」ということです。話し方に問題があるのか、聴き方に問題があるのかといった違いはありますが、どちらかが相手の話を理解できていないのです。
話した内容を相手が正しく理解してくれるからこそ、相手はそれに対して返答できます。そしてまた返答を正しく理解できるからこそ、またそれに対して返答ができるのです。
社会で必要なコミュニケーション力と、その育て方とは?
 

理解不足から起きる、コミュニケーションのトラブル

コミュニケーションにおいて、最も重要な力は「理解力」と言えます。
これは、アナログな仕事でもデジタルな仕事でも同様です。最近、職場でのトラブルとしてよく聞くエピソードがあります。
部下に仕事を依頼し、「はい」と返事がありしっかり復唱もしてくれたので安心していると、締め切りを過ぎても反応がありません。確認してみると、頼んだこととは異なる仕事に着手しており、まだ時間がかかると言うのです。部下は「依頼を自分なりに理解した結果」だと言います。認識が誤っていることを指摘すると、部下は、反論することも質問することもなく、素直に軌道修正します。
恐らくこの部下には「わかった(理解した)」と「わからない(理解できない)」といった感覚がないと考えられます。指示の言葉の意味を、自分が知っている言葉だけ切り取り、話をつなげて何となく進めてしまうということです。「わからない(理解できない)」ことを認識できないため、当然質問にも来ることもありません。確認を求めることもないのです。
この問題は、業務がデジタル化されるとより顕著になります。メールを書いたものの、意図が相手に伝わらない。メールが届いたものの、相手が何を言いたいのかよくわからない。テレビ会議では「はい」と言っていたにもかかわらず、やっていることが違う。対面では様子を見て「あれ?」と気づけることも、画面上のメールの文面のみでは気づけないケースもあります。このように、すべての課題はコミュニケーション、それも「理解不足」が原因となっているのです。
システム開発の業界でもしばしば耳にします。指示通りに構築したはずのシステムが、まったく使えないという話です。コミュニケーションがうまくいかなかったため、つまり互いに理解できないままシステムを構築してしまったために発生してしまうのです。
この場合の理解不足は2点あると考えられます。
  • 発注側の社内開発担当が、実務担当の業務を正しく理解していないケース
  • システム開発担当が、発注側の社内開発担当の話を正しく理解していないケース
繰り返しますが、課題はどちらも「理解不足」にあります。
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こうした状況は学生と社会人で異なるものなのでしょうか?
学生時代、コミュニケーションとして意識されるのは友だち同士や先輩後輩の関係が多いでしょう。つまり、近しいグループの中でのコミュニケーションが想定されているということです。SNS上では年齢や立場が異なるつながりがあるかもしれませんが、趣味などの共通項の中で話をする近しさがあるでしょう。伝わる内容の理解にズレがあっても大きな問題にはなりづらいのです。「やり取りの内容はそもそもお互いが知っていること」であり、「一部分だけを切り取って理解しても」コミュニケーションを進めてしまうことができるからです。
一方、社会に出れば、異なるバックグラウンドや目的を持つ者同士が意思を疎通させなければなりません。形だけ言葉をやり取りして「わかったつもり」になっていると、すぐに話は前に進まなくなってしまいます。例えば、上司が部下に指示を出すことを想定しても、指示内容について、上司と部下が持つ知識背景にはズレがあります。企業間での交渉では、この違いがより大きくなるでしょう。この「違い」(自分の認識と他人の認識の差)を前提として、「理解」を進めようという意識が必要です。社会に出る前に行う、学生時代に必要なコミュニケーショントレーニングでは、こうした「違い」があることを前提として「理解させる」「理解する」ことができるようになることを目指すべきでしょう。
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次回からは、大学入学時の学生をいくつかのタイプに分け、それぞれに対して必要なトレーニングを具体的に考えていきます。